さて、嘔吐してからの後始末は大変だった

私は元よりよく食べる子ではなかった為、此度の柄にもなくスーパーの総菜をふんだんに買ってきて喰らうというのが心身ともに辛く、結果嘔吐を引き起こしてしまったのはしようのないことだったと、切に思いたい。

 

何はともあれ吐き気を自発的に起こすことが、稀によくある私なのだから嘔吐行為に関して言えばこれは優良だった。私は吐くことに慣れている。もっと言えば上手く吐けるコツを他の媒体から得ずして、本能的に培えていた。

 

薬物乱用のODも結論を言えば吐くことに繋がる。胃の中でごちゃまぜになった内容物が、いつまでも体内の中で膨れ上がっていくわけにもいかず、宿主の中から出て行こうとするのは常だ。であればその手助けをしてやれるのは、おぼつか無い指取りで、虚ろな目に焦りの涙を滲ませた自分だ。吐くときは一瞬。苦痛から解き放たれた時の自分をイメージする頃合いにはすっかり胃液の味を、舌中で味わっている自分が居た。

 

吐瀉物は泡立ち、その隅々に鳥のささみのような肉片が幾多にも散らばっている。これもよく目にした光景。ただ見るに堪えないものに違いはないので、すぐ流しの蛇口は引いた。後にはすっからかんな、真白に輝く便器の穴が覗いているだけである。

 

嘔吐をしたのち、次に私を悩ます要因は吐瀉の跳ね返りが、自分の衣服に付着していないかということだった。執拗に衣類の端々を確認しながらも、『らしき染み』を見つけられなかったのにも関わらず、神経質な清潔感には打ち勝てず、衣類は全て脱ぎ去り下着一枚の半裸で残りの時間を過ごすことに決めた。腕はこの際何度も洗った。肘元連なる産毛まで、こすり落とす様に何度も何度も扱いてやった。

 

胃液を仄かに喉奥で感じ取りながらの煙草は最高だった。悪臭の立ち込めるのを、人体に有害である紫煙で吹き飛ばすのがことさらに愉快だった。こうしても見てみれば、口うるさく罵られ続けた煙草の害だって甘々しく感じ取れて見たものじゃないか。